以前読んで感銘を受けた本を紹介します。
本書に出会ったきっかけ
著者の海道利実先生の学会発表を拝聴し、非常に感銘を受けました。発表は英語論文作成に関するワークショップでしたが、その内容は英語論文作成にとどまらず、学会発表全般や臨床にもつながるものでした。先生の穏やかでありながら自信に満ちた話しぶりに、引き込まれるように聞き入ってしまいました。
小手先のテクニックにとどまらない
本書は、雑誌「消化器外科」での1年間にわたる連載をもとに書籍化されたもので、全12章で構成されています。どの章を読んでも、単なるノウハウの提供にとどまらず、1人の社会人としてのマインドを学会発表の重要性と結びつけて深く考察しています。
また、タイトルはリンカーンの有名な言葉「人民の、人民による、人民のための政治」をもじったものであり、同様に、有名人の名言や当時の流行語を巧みに取り入れた記述が随所に見られ、読んでいて飽きることがありません。
ぜひ実践したい「抄録を書いたら、すぐに論文化!」
第5章の見出しは「抄録を書いたら、すぐに論文化!」です。内容は見出しの通りですが、これがみんななかなか実践できません。
しかし、本書を読んで冷静に考えると、やはり抄録を書いたタイミングですぐに論文化するのが最も合理的です。
症例報告でもまとめものでも、抄録を書く際に資料/データを集め、そのテーマに対して最も詳しくなる時期です。しかし、実際の学会発表は抄録提出の数か月後です。多くの人は学会発表の直前までそのテーマのことは忘れていて、慌ててスライドを作り始めます。そして、発表が終わったら論文化はせずに上司に急かされてやっと論文化し始めるわけです(もしくは論文化せずにずっと眠らせておくか)。
前の週の宿題をやっている学生と一緒
以前読んだ「いつも『時間がない』あなたに 欠乏の行動経済学」という本に、興味深いエピソードが紹介されていました。要約すると、2人の学生が授業を聞いてレポートを書いていたのですが、1人は効率が悪く、もう1人は効率が良かった。その違いは、効率が悪い学生は先週の授業のレポートを書いており、効率が良い学生はその週の授業のレポートをすぐに書いていたという点にありました。効率が悪い学生は、今週の授業内容と先週の授業内容が頭の中で混ざったり、先週の授業の内容をあまり覚えていなかったりするため、効率が良い学生よりも多くの時間を要してしまうのです。
学会発表から論文作成に至るプロセスも同じです。抄録を書いた直後であれば、そのテーマに関する知識が鮮明に残っており、論文作成がスムーズに進みます。また、学会発表時には、すでに論文化されたテーマであるため、図表の作り直しや新たな考察を加える必要がなく、スライド作成も効率的に進められます。
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